2008年 09月 20日
敵こそ、我が友 ―戦犯クラウス・バルビーの3つの人生― |
(原題:MON MEILLEUR ENNEMI(英題:MY ENEMY’S ENEMY)
フランス映画 監督:ケヴィン・マクドナルド
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ナチ残党の、クラウス・バルビー(1913-1991)の78年間の戦慄すべき3つの人生を衝撃的映像で綴ったドキュメンタリーである。
カナダの歴史学者ハーバート・ノーマンの言葉に「歴史は決して一直線でも、単純な因果方程式でも、正は邪に対する勝利でも、闇から光への必然の進歩でもなかった」と言う表現がこの作品に重なる面を持っていて、これだけの長い年月をかけて一人の人間を検証してゆくと、20世紀において、世界の国や民族の相克や権力闘争の影で蠢く人間達の行動が齎す歴史の闇の部分を抉り出していて、凄まじかった1930年代の悪魔の時代層を浮き彫りにしてくれた貴重な作品である。
筋書きは、リヨンでユダヤ人や抵抗運動者への虐殺を実行したゲシュタボ、クラウス・バルビーの恐怖の第一の人生、その後3度も変名しながら、「人道に対する罪」の犯罪者としてフランス政府に追われながら、時あたかも、反共産主義を標榜するアメリカと利害を共にする機会を利用して米陸軍情報部の中に匿われ、その反共工作員として暗躍する。
ゲシュタボでの手腕をかわれ、時効のない“人道に対する罪”という、脛に傷を持つ極悪人と知りながら“赤狩り必殺人”として米国に雇われた立場を逆用してゆく第二の人生。
フランス側の引渡しの追及を逃れるため、南米ボリビアに身を隠し、1951年から1983年まで、したたかに生き延び、ボリビア軍事政権にも深くかかわり、アメリカの手先として、チェ・ゲバラ暗殺計画にも一役買っていたことなど、中南米にとっても、アメリカの権力ゲームの残滓として、
害毒を流し続けられた存在であったバルビーの第3の人生を重層的に描いている。
最後は、ボリビアで1982年軍政が左翼の民政に移管し、1983年バルビーは追放となるが、時既に色々の事実から、ハルトマンと変名していたバルビーの実態が判明、フランス政府の逮捕状が出ており、フレンチ・ギアナで逮捕され、1987年終身禁固刑と判決され、1991年に獄中病死する。
結局、ボリビアに埋葬されたと報じられている。
この作品の意味は、20世紀半ばに世界を揺るがした3つの事件、ファシズム・第二次大戦・共産主義の渦巻く潮流の中で、グローバルを横軸に時間を縦軸に、政治リアリズムはどう作用したか、イデオロギーの主張、権力の戦いの中に揺らぐ人間の判断、選択の一つ一つが歴史を刻んでいる事をしめしている。そしてその時々の貴重な映像を示しながらメッセージとしている。
即ち、バルビーに関係した人が次々登場するし、フランスのレジスタンスの英雄ムーランの夫人の談話、ゲバラの演説、バルビーの実娘の見解などである。
マクドナルド監督は前作「ラストキング・オブ・スコットランド」でも成功しているが、一人の人間を検証する事で時代層を浮き上がらせる手法は、この作品でも見事に結実している。
今日的問題として提示されており、20世紀の裏面史にもなっている。
(☆☆☆☆・☆)
(平成20年9月20日)
フランス映画 監督:ケヴィン・マクドナルド
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ナチ残党の、クラウス・バルビー(1913-1991)の78年間の戦慄すべき3つの人生を衝撃的映像で綴ったドキュメンタリーである。
カナダの歴史学者ハーバート・ノーマンの言葉に「歴史は決して一直線でも、単純な因果方程式でも、正は邪に対する勝利でも、闇から光への必然の進歩でもなかった」と言う表現がこの作品に重なる面を持っていて、これだけの長い年月をかけて一人の人間を検証してゆくと、20世紀において、世界の国や民族の相克や権力闘争の影で蠢く人間達の行動が齎す歴史の闇の部分を抉り出していて、凄まじかった1930年代の悪魔の時代層を浮き彫りにしてくれた貴重な作品である。
筋書きは、リヨンでユダヤ人や抵抗運動者への虐殺を実行したゲシュタボ、クラウス・バルビーの恐怖の第一の人生、その後3度も変名しながら、「人道に対する罪」の犯罪者としてフランス政府に追われながら、時あたかも、反共産主義を標榜するアメリカと利害を共にする機会を利用して米陸軍情報部の中に匿われ、その反共工作員として暗躍する。
ゲシュタボでの手腕をかわれ、時効のない“人道に対する罪”という、脛に傷を持つ極悪人と知りながら“赤狩り必殺人”として米国に雇われた立場を逆用してゆく第二の人生。
フランス側の引渡しの追及を逃れるため、南米ボリビアに身を隠し、1951年から1983年まで、したたかに生き延び、ボリビア軍事政権にも深くかかわり、アメリカの手先として、チェ・ゲバラ暗殺計画にも一役買っていたことなど、中南米にとっても、アメリカの権力ゲームの残滓として、
害毒を流し続けられた存在であったバルビーの第3の人生を重層的に描いている。
最後は、ボリビアで1982年軍政が左翼の民政に移管し、1983年バルビーは追放となるが、時既に色々の事実から、ハルトマンと変名していたバルビーの実態が判明、フランス政府の逮捕状が出ており、フレンチ・ギアナで逮捕され、1987年終身禁固刑と判決され、1991年に獄中病死する。
結局、ボリビアに埋葬されたと報じられている。
この作品の意味は、20世紀半ばに世界を揺るがした3つの事件、ファシズム・第二次大戦・共産主義の渦巻く潮流の中で、グローバルを横軸に時間を縦軸に、政治リアリズムはどう作用したか、イデオロギーの主張、権力の戦いの中に揺らぐ人間の判断、選択の一つ一つが歴史を刻んでいる事をしめしている。そしてその時々の貴重な映像を示しながらメッセージとしている。
即ち、バルビーに関係した人が次々登場するし、フランスのレジスタンスの英雄ムーランの夫人の談話、ゲバラの演説、バルビーの実娘の見解などである。
マクドナルド監督は前作「ラストキング・オブ・スコットランド」でも成功しているが、一人の人間を検証する事で時代層を浮き上がらせる手法は、この作品でも見事に結実している。
今日的問題として提示されており、20世紀の裏面史にもなっている。
(☆☆☆☆・☆)
(平成20年9月20日)
by masakuzu
| 2008-09-20 10:48
| フランス