2014年 09月 21日
イーダ (IDA) |
ポーランド映画 監督・脚本: パヴェウ・パヴリコフスキ
主演: アガタ・チュシェブホフスカ、アガタ・クレシャ
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久しぶりのこのポーランド映画「イーダ」は、モノクロで渋い静かな流れの中で得も言われぬ感動を巻き起こしてくれた。
ホロコーストの悲劇やナチス、ソ連の進駐で、幾多の苦渋をなめて来たこの国の近代史の負の集積は戦後幾つかの映画で明らかにされて来た。あの衝撃の映画「カティンの森」(2007年)「ソハの地下水道」(2011年)など脳裏から離れることはない。
いずれも戦争が生んだ異常な出来事である。しかもこの国の場合は戦後も長い間言論の自由が回復できなかったため、真相解明が明らかになるには長い時間が掛かってしまったのである。これら民族の、国の、地域の悲哀が繰り返し描かれてきた。
映画「イーダ」は、1962年未だ社会主義時代のポーランドの小さい町や村を舞台に、孤児として修道院で育てられたユダヤ人の少女イーダ(アガタ・チュシェブホフスカ)の親捜しの旅を描いている。殺害された両親を発見、矛盾に満ちたポーランドの暗い過去の中からどう抜け出して、自分の生き方を、アイデンティティーを探し出す事が出来るかと、イーダの無表情に悲しみを耐えながら成長して行く姿に胸がつまる。
一方、親捜しの旅を同行してくれた叔母ヴァンダの哀しい運命が過酷にもこの物語の陰の部分として色濃く表現されている。即ちユダヤ人でありポーランド人であることが辛い運命を加速する。ヴァンダは家族を同じポーランド人に殺害され、スターリン政権時代には検察官として、同じポーランド人の政治犯を裁く立場に立たされる。
そして二人の旅の結末は、絶望を確認したヴァンダの犠牲(破滅)と、それによる聖と俗を体験したイーダの新しい“生”への決意が生まれる。二人の夫々の個別の残酷な歴史が、色もセリフも説明も極力排除したストイックな映像の上に描かれている。
又ユダヤ系のポーランド人という出自がどんな存在だったか、そして現在ポーランド人のユダヤ人に対する罪悪感がどんなに深いか、をこの映画は裏主題にしている。
さてこの作品が示している通り、戦争や差別などによる、真相解明や誤解の修正がどんなに難しいか、ポーランドのように沢山の人生が長い間犠牲になっていて、半世紀経っても未だ解決したとは言えないのである。翻って、日本や世界の今の諸問題も、国や地域の問題のみの視点ではなく、文明論的に戦争や差別が引き起こす人間の問題として捉え、文化的メッセージを送り続ける事が希求されるのではなかろうか。
(☆☆☆☆・☆)
(平成26年9月18日)
主演: アガタ・チュシェブホフスカ、アガタ・クレシャ
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久しぶりのこのポーランド映画「イーダ」は、モノクロで渋い静かな流れの中で得も言われぬ感動を巻き起こしてくれた。
ホロコーストの悲劇やナチス、ソ連の進駐で、幾多の苦渋をなめて来たこの国の近代史の負の集積は戦後幾つかの映画で明らかにされて来た。あの衝撃の映画「カティンの森」(2007年)「ソハの地下水道」(2011年)など脳裏から離れることはない。
いずれも戦争が生んだ異常な出来事である。しかもこの国の場合は戦後も長い間言論の自由が回復できなかったため、真相解明が明らかになるには長い時間が掛かってしまったのである。これら民族の、国の、地域の悲哀が繰り返し描かれてきた。
映画「イーダ」は、1962年未だ社会主義時代のポーランドの小さい町や村を舞台に、孤児として修道院で育てられたユダヤ人の少女イーダ(アガタ・チュシェブホフスカ)の親捜しの旅を描いている。殺害された両親を発見、矛盾に満ちたポーランドの暗い過去の中からどう抜け出して、自分の生き方を、アイデンティティーを探し出す事が出来るかと、イーダの無表情に悲しみを耐えながら成長して行く姿に胸がつまる。
一方、親捜しの旅を同行してくれた叔母ヴァンダの哀しい運命が過酷にもこの物語の陰の部分として色濃く表現されている。即ちユダヤ人でありポーランド人であることが辛い運命を加速する。ヴァンダは家族を同じポーランド人に殺害され、スターリン政権時代には検察官として、同じポーランド人の政治犯を裁く立場に立たされる。
そして二人の旅の結末は、絶望を確認したヴァンダの犠牲(破滅)と、それによる聖と俗を体験したイーダの新しい“生”への決意が生まれる。二人の夫々の個別の残酷な歴史が、色もセリフも説明も極力排除したストイックな映像の上に描かれている。
又ユダヤ系のポーランド人という出自がどんな存在だったか、そして現在ポーランド人のユダヤ人に対する罪悪感がどんなに深いか、をこの映画は裏主題にしている。
さてこの作品が示している通り、戦争や差別などによる、真相解明や誤解の修正がどんなに難しいか、ポーランドのように沢山の人生が長い間犠牲になっていて、半世紀経っても未だ解決したとは言えないのである。翻って、日本や世界の今の諸問題も、国や地域の問題のみの視点ではなく、文明論的に戦争や差別が引き起こす人間の問題として捉え、文化的メッセージを送り続ける事が希求されるのではなかろうか。
(☆☆☆☆・☆)
(平成26年9月18日)
by masakuzu
| 2014-09-21 09:03
| ポーランド