2013年 02月 25日
東京家族 |
監督:山田洋次 脚本:山田洋次、平松恵美子 音楽:久石譲
主演:橋爪 功、吉行和子、妻夫木 聡、蒼井 優 西村雅彦、中島朋子
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この作品「東京家族」は山田洋次監督の監督50周年記念作品として、又小津安二郎監督の名作「東京物語」のリメイクとして、期待と幾多の話題の中で企画製作されていたが、震災の影響で一年遅れてお目見えした。
誰が予想したであろうか、今年2月初めBBCは、英国の「サイド・アンド・サウンド」誌が、―偶然にもー 世界の監督358人の投票で、世界の映画で優秀作品のトップに「東京物語」が選ばれたと報じているヨーロッパではもう20年以上前から小津作品の評価は高かったが、その頃は未だダイナミックな表現の動的な黒沢監督の「七人の侍」の方が上位にあったのである。社会環境の成熟度により、静謐なモチーフや人生に関するささやかな交歓にも受容度が進化し、静的な小津調への共通認識が高まったのであろう。
今まで「家族」を描き続けてきた山田監督が、今回小津安二郎のオマージュとして、いい意味での大船調、何気ない日常の中での人情、家族との哀歓を、人生観にまで昇華している現象を、今日的に再現しようとした同監督の意図を思う時、この映画は「小津安二郎と山田洋次」物語にもなっている。
物語は瀬戸内海の小島に住む周吉(橋爪功)と妻とみこ(吉行和子)が上京する。東京の三家族に世話になるモチーフは東京物語と同じで,再会は喜びあうが、長男、長女の家族の多忙な生活のリズムにはみ出してゆく処は、前作と同じ設定で、小津調を丁寧に追い、オマージュを意識して、カメラのアングルや細かい小道具大道具など配しているものの、小津の超スローのリズムの持つ固有の味わいとの違和感のためか、前半は何故か逆に冗長に感じられたのは不思議である。
一方、周吉が頼りないと思ってきた次男昌次(妻夫木聡)と婚約者紀子(蒼井優)宅に泊まったとみこ(吉行和子)は二人の中に、生き甲斐を感じ取る局面から、後半、吉行和子の好演も相俟って「東京家族」は山田調に生き生きと転調する。ここからは小津の影は薄くなる。
「東京物語」の場合は戦死した次男の嫁紀子(原節子)の世話になり、ほっとするシーンが有るが、父周吉(笠智衆)が瀬戸内に帰って行くラストシーンには無常感が漂っているが、山田洋次の「東京家族」は家族の温かさを残している。
翻って考えると、高度成長期に、書かれた小津の脚本は、若者の大都会への一極集中とそれに伴う核家族化の進行で、家族の崩壊を描いたのものであるが、今日老人を誰が面倒をみるか今尚一層深刻化している。決して古い問題でもなく、世界的にも普遍的な問題として、日本的表現と相まって受け止められてきたものであろう。
巨匠小津安二郎監督に対する深い敬愛が、「東京家族」で快い感動を生んでいる。
(☆☆☆☆)
(平成25年2月20日)
主演:橋爪 功、吉行和子、妻夫木 聡、蒼井 優 西村雅彦、中島朋子
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この作品「東京家族」は山田洋次監督の監督50周年記念作品として、又小津安二郎監督の名作「東京物語」のリメイクとして、期待と幾多の話題の中で企画製作されていたが、震災の影響で一年遅れてお目見えした。
誰が予想したであろうか、今年2月初めBBCは、英国の「サイド・アンド・サウンド」誌が、―偶然にもー 世界の監督358人の投票で、世界の映画で優秀作品のトップに「東京物語」が選ばれたと報じているヨーロッパではもう20年以上前から小津作品の評価は高かったが、その頃は未だダイナミックな表現の動的な黒沢監督の「七人の侍」の方が上位にあったのである。社会環境の成熟度により、静謐なモチーフや人生に関するささやかな交歓にも受容度が進化し、静的な小津調への共通認識が高まったのであろう。
今まで「家族」を描き続けてきた山田監督が、今回小津安二郎のオマージュとして、いい意味での大船調、何気ない日常の中での人情、家族との哀歓を、人生観にまで昇華している現象を、今日的に再現しようとした同監督の意図を思う時、この映画は「小津安二郎と山田洋次」物語にもなっている。
物語は瀬戸内海の小島に住む周吉(橋爪功)と妻とみこ(吉行和子)が上京する。東京の三家族に世話になるモチーフは東京物語と同じで,再会は喜びあうが、長男、長女の家族の多忙な生活のリズムにはみ出してゆく処は、前作と同じ設定で、小津調を丁寧に追い、オマージュを意識して、カメラのアングルや細かい小道具大道具など配しているものの、小津の超スローのリズムの持つ固有の味わいとの違和感のためか、前半は何故か逆に冗長に感じられたのは不思議である。
一方、周吉が頼りないと思ってきた次男昌次(妻夫木聡)と婚約者紀子(蒼井優)宅に泊まったとみこ(吉行和子)は二人の中に、生き甲斐を感じ取る局面から、後半、吉行和子の好演も相俟って「東京家族」は山田調に生き生きと転調する。ここからは小津の影は薄くなる。
「東京物語」の場合は戦死した次男の嫁紀子(原節子)の世話になり、ほっとするシーンが有るが、父周吉(笠智衆)が瀬戸内に帰って行くラストシーンには無常感が漂っているが、山田洋次の「東京家族」は家族の温かさを残している。
翻って考えると、高度成長期に、書かれた小津の脚本は、若者の大都会への一極集中とそれに伴う核家族化の進行で、家族の崩壊を描いたのものであるが、今日老人を誰が面倒をみるか今尚一層深刻化している。決して古い問題でもなく、世界的にも普遍的な問題として、日本的表現と相まって受け止められてきたものであろう。
巨匠小津安二郎監督に対する深い敬愛が、「東京家族」で快い感動を生んでいる。
(☆☆☆☆)
(平成25年2月20日)
by masakuzu
| 2013-02-25 13:16
| 日本