2008年 10月 25日
おくりびと |
日本映画 監督:滝田洋二郎 脚本:小林薫堂、音楽:久石譲
主演:山崎努、本木雅弘、広末涼子
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旅立つ人と、旅立ちを見送る人の間に生じる厳粛な境界、近くても手が届かない、声も通らない、今までとは異質な空間と時間の中で、人々は希望の中で送別をしようと心の準備をする。揺ぎ無い絆の証を手繰り寄せようと奥深く沈思する心をよそに、粛々とお別れの手順が進んでゆく、生命を失った旅人にどんなお別れがよいのだろう。最後の思い出をどう残すか、簡単には纏まらない。人は、別れ際での笑顔は、次の出会いに繋がる。旅立つ人への追慕に、美しく装い、その人の全人生を象徴として“永遠の想い出”とするのは彼我の救いでもある。
同時に、”死“も次なる“生”の出発点と捉えることで、心の安らぎに辿り着けるのである。
この作品はこの瞬間を仲立ちする「納棺師」の物語で、忌み嫌う役割を昇華させ人間の尊厳をも高める旅立ちへのコスチューム・デザイナーとして演じさせ、且つ芸術的でさえある。
滝田監督は一見地味で触れがたいイメージのこの職業を、厳粛の中でもユーモラスに捉え、
セレモニーの中に“命”を注ぎこむ。その懸命さが生きること愛することに繋がってゆくのを絶妙な会話やエピソードの中で表現している。
脚色の小林薫堂は多彩なエピソードを用意しているが、その中には納棺師小林大悟(本木雅弘)が目を背けたくなる遺体に会った後には、食事にも拒否反応を示したり、ボロボロになって帰った時に妻の体をむさぼり抱きしめるシーンなど、厳しくも又辛い切ない部分を飾らずにその哀感を描きながら、次第に使命感や誇りのような姿勢に変容してゆく所がよく出ている。
主演の本木雅弘、山崎努、広末涼子が夫々持味を出して、際立って好演である。その上
脇役の吉行和子、余貴美子、笹野高史もまた主演者たちに呼応して余白を埋めて見応えがある演技振りで作品の質を高めている。また、格調あるリズムでこの作品を彩っている久石譲の音楽も出色である。
物語はチェロ奏者だった主人公小林大悟が、オーケストラの解散で、妻と山形の実家に帰って職を探す内に、「旅のお手伝い」と云う広告に誘われて、就職した先がなんと納棺師だった。
この冒頭からシリアスとユーモアの混ざり合った流れの中でチェロのテーマ音楽が実に絶妙に
この作品の品格を構成している。
滝田監督は若い時代は成人映画の経験が長かったようだが、ここ10年は話題作も多く、一昨年「壬生義士伝」で注目されたが、本作もエピソードをワンカットづつ味のある会話で繋ぎ、
無駄な説明を避けて、すっきりした作品に仕上げて、秀作である。
(☆☆☆☆☆)
(平成20年10月25日)
主演:山崎努、本木雅弘、広末涼子
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旅立つ人と、旅立ちを見送る人の間に生じる厳粛な境界、近くても手が届かない、声も通らない、今までとは異質な空間と時間の中で、人々は希望の中で送別をしようと心の準備をする。揺ぎ無い絆の証を手繰り寄せようと奥深く沈思する心をよそに、粛々とお別れの手順が進んでゆく、生命を失った旅人にどんなお別れがよいのだろう。最後の思い出をどう残すか、簡単には纏まらない。人は、別れ際での笑顔は、次の出会いに繋がる。旅立つ人への追慕に、美しく装い、その人の全人生を象徴として“永遠の想い出”とするのは彼我の救いでもある。
同時に、”死“も次なる“生”の出発点と捉えることで、心の安らぎに辿り着けるのである。
この作品はこの瞬間を仲立ちする「納棺師」の物語で、忌み嫌う役割を昇華させ人間の尊厳をも高める旅立ちへのコスチューム・デザイナーとして演じさせ、且つ芸術的でさえある。
滝田監督は一見地味で触れがたいイメージのこの職業を、厳粛の中でもユーモラスに捉え、
セレモニーの中に“命”を注ぎこむ。その懸命さが生きること愛することに繋がってゆくのを絶妙な会話やエピソードの中で表現している。
脚色の小林薫堂は多彩なエピソードを用意しているが、その中には納棺師小林大悟(本木雅弘)が目を背けたくなる遺体に会った後には、食事にも拒否反応を示したり、ボロボロになって帰った時に妻の体をむさぼり抱きしめるシーンなど、厳しくも又辛い切ない部分を飾らずにその哀感を描きながら、次第に使命感や誇りのような姿勢に変容してゆく所がよく出ている。
主演の本木雅弘、山崎努、広末涼子が夫々持味を出して、際立って好演である。その上
脇役の吉行和子、余貴美子、笹野高史もまた主演者たちに呼応して余白を埋めて見応えがある演技振りで作品の質を高めている。また、格調あるリズムでこの作品を彩っている久石譲の音楽も出色である。
物語はチェロ奏者だった主人公小林大悟が、オーケストラの解散で、妻と山形の実家に帰って職を探す内に、「旅のお手伝い」と云う広告に誘われて、就職した先がなんと納棺師だった。
この冒頭からシリアスとユーモアの混ざり合った流れの中でチェロのテーマ音楽が実に絶妙に
この作品の品格を構成している。
滝田監督は若い時代は成人映画の経験が長かったようだが、ここ10年は話題作も多く、一昨年「壬生義士伝」で注目されたが、本作もエピソードをワンカットづつ味のある会話で繋ぎ、
無駄な説明を避けて、すっきりした作品に仕上げて、秀作である。
(☆☆☆☆☆)
(平成20年10月25日)
by masakuzu
| 2008-10-25 09:38
| 日本