2008年 07月 14日
山桜 |
日本映画 原作:藤澤周平 監督:篠原哲雄
主演:東山紀之、田中麗奈、富司純子
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藤澤作品の映画化は確か5作目であるが、”山桜“はその中でも華麗な作品である。この原作は藤澤周平の短編集「時雨みち」の中の僅か24頁の小品である。所謂”武家もの“ではあるが、野江(田中麗奈)と云う薄幸の女性の毅然と堪えて過ごす日々と、庄内の美しい四季を描きながら、主人公が最後に光明を見つけ出す物語である。際立って絵に描いたような見事な名文で、映画化するにしても、又芝居にするにしても、そのまま写し変えれば一幕物の形のよい作品に仕上がる様に出来ている。珠玉の文脈とその描写に思わず引き込まれる程である。
短編集「時雨みち」の中の作品には、「亭主の仲間」のような、主人公がお人よしで誠実で、人に思いを込めれば込めるほど、破綻の深みに落ち込んでゆくような、どろどろした暗い部分を執拗に書き上げているものが多い。その中でこの作品は、はっと思わせる見事な庄内の山桜が、回り道をした野江の人生に、秘めたる愛を手繰り寄せるモチーフとして描かれることで、明るみの見える運命の道を、哀しくも又美しく描いている珍しい作品である。
篠田監督は原作に忠実に、実に端正に又しっとりと、自然の美しさと、野江と手塚(東山紀之)の二人の情感を品良く描いて、見事に形よく纏めあげている。
6年前、山田洋次監督が「たそがれ清兵衛」で始めて時代ものとして下級武士の哀感をリアルに描いて藤澤作品の映画化に道を開いたのであったが、その後「隠し剣 鬼の爪」「蝉しぐれ」「武士の一分」と話題性のある作品がお目見えしてきた。
しかし第2,3作目は、時代と人を冷静に見据え、負の部分や弱いものに情感を寄せて、いずれも過酷な運命に置かれた世間の傍流に共感を寄せて描かれているが、乱れた幕末の地方藩政、山形の美しい自然、下級武士の心意気の三要素を持つこの時代物をリアルにしかも欲張って情感を漂わすには、バランス上かなり無理が多いと感じざるを得なかった。
それに引き換え、”山桜“は単純化された構成とは言え、ゆったりとしたテンポの流れに乗せて
現代風であるとしても、一種の“様式美的”切り口で仕上げられすっきりとした作品になった。
即ち、薄紅の山桜が手繰り寄せる野江と手塚の愛、藩の悪徳重臣を切り捨てる手塚の殺陣の凛とした形、繊細な衣装の美しさ、そして最後に即刻の処分を免れ裁きを待つ間、江戸より帰参の藩主の大名行列の象徴的な様式は、明るい明日を暗示する芝居の幕のような見事なエンディングで納得である。
小藩の武士の娘を演ずる田中麗奈は清新で瑞々しく、寡黙できりっとした武士を演ずる東山紀之、その母、富司純子とも好演で作品を整然とした品格のあるものにしている。(☆☆☆☆)
(平成20年7月10日)
主演:東山紀之、田中麗奈、富司純子
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藤澤作品の映画化は確か5作目であるが、”山桜“はその中でも華麗な作品である。この原作は藤澤周平の短編集「時雨みち」の中の僅か24頁の小品である。所謂”武家もの“ではあるが、野江(田中麗奈)と云う薄幸の女性の毅然と堪えて過ごす日々と、庄内の美しい四季を描きながら、主人公が最後に光明を見つけ出す物語である。際立って絵に描いたような見事な名文で、映画化するにしても、又芝居にするにしても、そのまま写し変えれば一幕物の形のよい作品に仕上がる様に出来ている。珠玉の文脈とその描写に思わず引き込まれる程である。
短編集「時雨みち」の中の作品には、「亭主の仲間」のような、主人公がお人よしで誠実で、人に思いを込めれば込めるほど、破綻の深みに落ち込んでゆくような、どろどろした暗い部分を執拗に書き上げているものが多い。その中でこの作品は、はっと思わせる見事な庄内の山桜が、回り道をした野江の人生に、秘めたる愛を手繰り寄せるモチーフとして描かれることで、明るみの見える運命の道を、哀しくも又美しく描いている珍しい作品である。
篠田監督は原作に忠実に、実に端正に又しっとりと、自然の美しさと、野江と手塚(東山紀之)の二人の情感を品良く描いて、見事に形よく纏めあげている。
6年前、山田洋次監督が「たそがれ清兵衛」で始めて時代ものとして下級武士の哀感をリアルに描いて藤澤作品の映画化に道を開いたのであったが、その後「隠し剣 鬼の爪」「蝉しぐれ」「武士の一分」と話題性のある作品がお目見えしてきた。
しかし第2,3作目は、時代と人を冷静に見据え、負の部分や弱いものに情感を寄せて、いずれも過酷な運命に置かれた世間の傍流に共感を寄せて描かれているが、乱れた幕末の地方藩政、山形の美しい自然、下級武士の心意気の三要素を持つこの時代物をリアルにしかも欲張って情感を漂わすには、バランス上かなり無理が多いと感じざるを得なかった。
それに引き換え、”山桜“は単純化された構成とは言え、ゆったりとしたテンポの流れに乗せて
現代風であるとしても、一種の“様式美的”切り口で仕上げられすっきりとした作品になった。
即ち、薄紅の山桜が手繰り寄せる野江と手塚の愛、藩の悪徳重臣を切り捨てる手塚の殺陣の凛とした形、繊細な衣装の美しさ、そして最後に即刻の処分を免れ裁きを待つ間、江戸より帰参の藩主の大名行列の象徴的な様式は、明るい明日を暗示する芝居の幕のような見事なエンディングで納得である。
小藩の武士の娘を演ずる田中麗奈は清新で瑞々しく、寡黙できりっとした武士を演ずる東山紀之、その母、富司純子とも好演で作品を整然とした品格のあるものにしている。(☆☆☆☆)
(平成20年7月10日)
by masakuzu
| 2008-07-14 17:40
| 日本