2007年 01月 22日
硫黄島からの手紙 |
アメリカ映画 原案:ポール・ハギス 脚色:アイリス・山下 製作:スピルバーグ
監督:クリント・イーストウッド 主演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、中村獅童
------------------------------------------------------------------
太平洋戦争を取り上げた映画は今までに少なくないが、流石、クリント・イーストウッド監督の作品だと,真から納得が行く作品である。云うまでもなく、日本の俳優陣が日本語で演じてはいるが、れっきとしたアメリカ映画である。
日米戦争の米軍本土上陸前の、最後の砦となった激戦地、硫黄島の戦いを日米双方の視点で描いた2部作中の「父親たちの星条旗」に続く第二弾である。戦後が60年以上になり、世界がグローバル化した今日、戦争を、国家とか、政治とかの切り口ではなく、人間や、家族に焦点を合わせて、戦争末期の絶海の孤島で極限に置かれた日本の軍人たちが、いかに死んだか、同時にいかに生きたかを、地中から見つかった手紙などから、戦闘の場面より、人間を描き挙げていて感動的である。
クリント・イーストウッド監督は数多い作品を見ると一貫して、人間がいかに生きたか、又どう生かしたかを表現していて、「マジソン郡の橋」や「ミリオンダラー・ベイビー」で見せた透徹した人間愛を、この作品でも性格の異なる日本人に、同様、この監督の視点でよく捉えている。
日本の映画界は、この二、三十年興行的に低迷していて、費用の嵩む大作に取り掛かれず、幅のある企画が少なく小品的傾向の作品が多いが、近年、日本に興味を持つアメリカの文筆家、演出家は多く、最近では「ラスト・サムライ」で日本の武士道をとりあげ、「SAYURI」では日本の芸者の心意気を描いて見せたが、この作品でも、戦況は劣勢の中での戦術上の葛藤はあっても、軍人たちの品格、優れた作戦、人間愛、家族愛を描き、大和魂だけではない日本人を描いてくれている。段々と日本人の心の掴み方の深度を増している。
クリント・イーストウッドはリサーチの中で栗林中将に注目し、嘗て親米で,厳しい戦局が判りながらも、一日でも本土攻撃を遅らせようと苦悩するリーダーの反目した心境に迫っていた。
尚、この作品の栗林中将は、監督と渡辺謙の合作になっていて、彼の重厚な中にもヒューマニズムを内に秘めた演技は光っていた。又この映画の事実上の主人公兵士西郷(二宮和也)、それにバロン西(伊原剛志)精神論の伊藤中尉(中村獅童)は灼熱の地下壕で恐怖と不安の中で、夫々の考え方を生々しく主張して合ってリアルで緊迫した臨場感があった。特に最後生き残った若い西郷(二宮)はその複雑な心情を良く表現できていて好演であった。
製作、脚本、監督等の力量も見事であるが、日本のキャストとの協調とその総合力の結果が、これだけの見応えのある作品に結実したのであろう。
云えることは、勝敗を分けた二つの国の人間が、この作品を通して“戦争の虚しさ”に対して同じ感慨を持った事である。しかし現実には、この硫黄島の決戦から、たった5年後に朝鮮戦争が始まり、更に15年後にヴェトナム戦争に突入し、湾岸戦争、中東戦争の流れから愚かしい今日がある。決して平和は未だ来ていない。グローバルな世界に、更なる人間性の高揚が希求されている。
(☆☆☆☆・☆)
(平成19年1月22日)
監督:クリント・イーストウッド 主演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、中村獅童
------------------------------------------------------------------
太平洋戦争を取り上げた映画は今までに少なくないが、流石、クリント・イーストウッド監督の作品だと,真から納得が行く作品である。云うまでもなく、日本の俳優陣が日本語で演じてはいるが、れっきとしたアメリカ映画である。
日米戦争の米軍本土上陸前の、最後の砦となった激戦地、硫黄島の戦いを日米双方の視点で描いた2部作中の「父親たちの星条旗」に続く第二弾である。戦後が60年以上になり、世界がグローバル化した今日、戦争を、国家とか、政治とかの切り口ではなく、人間や、家族に焦点を合わせて、戦争末期の絶海の孤島で極限に置かれた日本の軍人たちが、いかに死んだか、同時にいかに生きたかを、地中から見つかった手紙などから、戦闘の場面より、人間を描き挙げていて感動的である。
クリント・イーストウッド監督は数多い作品を見ると一貫して、人間がいかに生きたか、又どう生かしたかを表現していて、「マジソン郡の橋」や「ミリオンダラー・ベイビー」で見せた透徹した人間愛を、この作品でも性格の異なる日本人に、同様、この監督の視点でよく捉えている。
日本の映画界は、この二、三十年興行的に低迷していて、費用の嵩む大作に取り掛かれず、幅のある企画が少なく小品的傾向の作品が多いが、近年、日本に興味を持つアメリカの文筆家、演出家は多く、最近では「ラスト・サムライ」で日本の武士道をとりあげ、「SAYURI」では日本の芸者の心意気を描いて見せたが、この作品でも、戦況は劣勢の中での戦術上の葛藤はあっても、軍人たちの品格、優れた作戦、人間愛、家族愛を描き、大和魂だけではない日本人を描いてくれている。段々と日本人の心の掴み方の深度を増している。
クリント・イーストウッドはリサーチの中で栗林中将に注目し、嘗て親米で,厳しい戦局が判りながらも、一日でも本土攻撃を遅らせようと苦悩するリーダーの反目した心境に迫っていた。
尚、この作品の栗林中将は、監督と渡辺謙の合作になっていて、彼の重厚な中にもヒューマニズムを内に秘めた演技は光っていた。又この映画の事実上の主人公兵士西郷(二宮和也)、それにバロン西(伊原剛志)精神論の伊藤中尉(中村獅童)は灼熱の地下壕で恐怖と不安の中で、夫々の考え方を生々しく主張して合ってリアルで緊迫した臨場感があった。特に最後生き残った若い西郷(二宮)はその複雑な心情を良く表現できていて好演であった。
製作、脚本、監督等の力量も見事であるが、日本のキャストとの協調とその総合力の結果が、これだけの見応えのある作品に結実したのであろう。
云えることは、勝敗を分けた二つの国の人間が、この作品を通して“戦争の虚しさ”に対して同じ感慨を持った事である。しかし現実には、この硫黄島の決戦から、たった5年後に朝鮮戦争が始まり、更に15年後にヴェトナム戦争に突入し、湾岸戦争、中東戦争の流れから愚かしい今日がある。決して平和は未だ来ていない。グローバルな世界に、更なる人間性の高揚が希求されている。
(☆☆☆☆・☆)
(平成19年1月22日)
by masakuzu
| 2007-01-22 21:10
| アメリカ