ボンジュール・アン (原題:Paris can wait) |
2016年 アメリカ映画 92分 カラービスタ 監督・脚本・製作:エレノア・コッポラ 主演:ダイアン・レイン、アルノー・ヴィアール、アレック・ボールドウイン
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映画の楽しさを巧みに表現してくれた作品である。
先ず、邦題が近頃珍しく、垢抜けている。原題は“Pariscan wait”、異約では「パリは?」「待たせとく」といった何故だろうと期待感を持たせてくれている。
中年のエレガントな魅力を湛えたダイアン・レインが演ずるアンが、人生ってまだステキだ、―車でカンヌからパリへ─、思いがけない回り道が人生の楽しみを教えてくれた、明るい人生賛歌である。
この作品は二つのユニークな環境によって、映画化された。
アメリカの脚本家でありプロデューサーの、エレノア・コッポラが自らの体験を描いたもので、夫は「地獄の黙示録」のフランシス・コッポラ監督であり、娘ソフィアはすでに監督として「ロスト・イン・トランスレーション」でオスカーを受賞している映画家族で、夫フランシスの勧めで、脚本・演出をも80歳で初めて手掛けた。
パリにも居所を持つこのアメリカ人が、フランスの中でも魅力のあるカンヌからパリまでの華やかな街道を、上等なワイン、最高のレストラン、美しい風景、歴史的風物、高い文化の残像に心を奪われながら、自分探しをしてゆくロード・ムービーに楽しい映像を重ねている。
物語は、中年まで、夫と家族の面倒に明け暮れたアンが、これからの人生をいかに過ごすかを思案する中で、偶々、夫の友人のフランス人の車でパリまで送ってもらうことになる。稍、気になるフランス洒落男は、アンの心配をよそに、黄金街道をパリまでの寄り道にプロデュースする。カンヌからプロヴァンスの風物を眺めながら、セザンヌが自分を表現するため、描き続けた「サント・ヴィクトワール山」を遠望し、水道橋でローマ文化の遺跡を味わい、ローヌ川のピクニックでマネの「草上の昼食」のイメージ遊びにふけり、最後にヴェズレーのマドレーヌ大寺院、巡礼の最終点の聖地で心を休めることが出来た。 アンが自分探しの糸口を見出しそうに面白く描かれている。
この不思議な旅ながら、自身の成長を感じ、新しい楽しさと幸せを探れそうだという明るい作品である。
(平成29年8月20日)