2016年 02月 27日
秘密と嘘 |
2016映画鑑賞会(中村ホームシアター)
名画シリーズ
秘密と嘘
(原題:Secrets & Lies)
イギリス映画 製作:1996年 監督・脚本:マイク・リー、上映時間 142分
主演:ブレンダ・ブレッシン、マリアンヌ・ジャン・バプティスト、ティモシー・スポール
1996年、カンヌ映画祭:パルムドール受賞、1998年キネマ旬報ベストテン:第一位
==========================================
20年ぶりに見たこの作品がなんと新鮮であることか、と驚かされた。というのは当時の名作を懐かしく又もう一度味わいたいという気持ちには、収まり切れない凄さがあった。
内容は、普遍的な視点をもって、人間の持つ“性(さが)”をリアルに描いているものであり、映像は、思い切ったクローズアップのカットで繋ぎ、名優ぞろいの豊かな表情で物語を描いているし、時として,長廻しのカメラの間に親子の心情を語らせ、又二人のリアルな動きに監督の主張を盛り込んでゆき、真の人生の良さを何気なく表現している。
そのディーテイルは1997年3月18日に映画研究の「映像会」の合評の際に作成した映画評論に記載したものと略々同じ印象なので下記原文通りリピートする。
「演劇の世界から映画表現に挑戦しようと映画監督になった思想と主張をもった監督である。 一口に言って、見事な作品である。一つのヴィジョンでこんな“こく”のある映画ができる ものかと、映画の良さを改めて実感させてくれた。
ロンドン郊外のある家族の物語である。小さな世界で、日常にある秘密と嘘、そして真実と愛を描いたである。人は誰もが明かされるべき秘密を持ち、傷を覆いながら、告白すべき嘘を持つ運命になっていくそれが、いつの間にか誰かを傷つけ、誤解させ、違和感を生んでしまう。
ある誕生日のパーティーで秘密と嘘が弾け、騒然となるが、夫々の蔭の部分の痛みに触れて 温かいファミリーに変容してゆくのである。その演劇的な組み立ても仲々見応えがある。
見終わって、「ああ、これは正にシェイクスピアだ」と言う感慨があった。同監督が好き だと言っている小津安二郎的表現とも思える、家の中の人々の動きやカメラの追跡、表面 を抑えながら、内容を表現している流れは、異文化を感じさせない。会話は、ユーモアや アイロニーで綴られて、いい味付けになっている。オスカーを受賞したブレンダ・ブレッシ ンが、田舎町の勤め人の白人女性を見事に演じ、生後間もなく養子に出した娘(黒人) マリアンヌ・ジャン・バプティストとの二十数年振りの再会の場面は名演技が噛み合い、 思わず息をのむ程である。 」
さて、見終わって矢張り10年に一つの名作と云える。近頃の欧米の映画をみるに、人間の持つ深刻さや格好悪さを避けて、表面的に甘く家族愛を描いているが、この作品は内在する表裏を一歩深くリアルに描きながら、素朴なところに本当の愛があることを教えている。
先日、一緒に鑑賞したF氏よりの指摘によると、原題の“Secrets & Lies”の副題にフランス語“SECRETS et MESONAGES”と映し出されていた由で、フランスの征服王ウイリアム1世が英国を征服した時代の交流から、イギリス映画とは云えヨーロッパ文化、人生観に共通したものがあろうかと示唆されている。想像するに、邦題“秘密と嘘”と直訳されているが、“嘘“と申すより”虚偽“と広い解釈が日本人には判りよく、人間について回る“虚実“の物語なのである。
物語は、私生児の娘、ロクサンヌからは蔑まれ、弟モーリス(ティモシー・スポール)とも折り合い悪く、何一つ望みなく暮らしているシンシア(ブレンダ・ブレッシン)にある日、あなたは私の母だという若い女性ホーテンス(マリアンヌ・ジャン=バプティスト)から電話を受ける。黒人であるホーテンスは自分が生んですぐ養子に出した娘であることが判る。
展開は、この隠し事(秘密)が家族の前に明かされる、モーリスの家でのロクサンヌの誕生会で、それぞれの持っている心の傷が明かされ、家族の中の突っ張った虚像を溶かしてゆく、監督のシナリオを、見事に表現したブレンダ・ブレッシンと、マリアンヌ、ティモシーの息の合った名演技は忘れられない。特に、初めて親子が待ち合わせ場所で、顔を知らない二人が、同じ場所を何度も行き来しても気が付かない、気がついても中々信じきれないシーンは正に事実そのもののような臨場感であり、二度目に娘ホーテンスに会いに行くシンシアの顔は一点の曇りもない、太陽のような表情になっている。
二人の娘の前で「人生っていいわね」というシンシアの晴れ晴れとしたセリフでこの作品の
幕となって、ほっとしたが、翻ってみるに、運命に逆らわず不服も言わず努力するホーテンスがいい「人生の軸」になっている。やたらに挑戦的な人生観より、かかる静謐な日本的な人生観のほうが、近道のような気がする。
(平成28年2月25日)
名画シリーズ
秘密と嘘
(原題:Secrets & Lies)
イギリス映画 製作:1996年 監督・脚本:マイク・リー、上映時間 142分
主演:ブレンダ・ブレッシン、マリアンヌ・ジャン・バプティスト、ティモシー・スポール
1996年、カンヌ映画祭:パルムドール受賞、1998年キネマ旬報ベストテン:第一位
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20年ぶりに見たこの作品がなんと新鮮であることか、と驚かされた。というのは当時の名作を懐かしく又もう一度味わいたいという気持ちには、収まり切れない凄さがあった。
内容は、普遍的な視点をもって、人間の持つ“性(さが)”をリアルに描いているものであり、映像は、思い切ったクローズアップのカットで繋ぎ、名優ぞろいの豊かな表情で物語を描いているし、時として,長廻しのカメラの間に親子の心情を語らせ、又二人のリアルな動きに監督の主張を盛り込んでゆき、真の人生の良さを何気なく表現している。
そのディーテイルは1997年3月18日に映画研究の「映像会」の合評の際に作成した映画評論に記載したものと略々同じ印象なので下記原文通りリピートする。
「演劇の世界から映画表現に挑戦しようと映画監督になった思想と主張をもった監督である。 一口に言って、見事な作品である。一つのヴィジョンでこんな“こく”のある映画ができる ものかと、映画の良さを改めて実感させてくれた。
ロンドン郊外のある家族の物語である。小さな世界で、日常にある秘密と嘘、そして真実と愛を描いたである。人は誰もが明かされるべき秘密を持ち、傷を覆いながら、告白すべき嘘を持つ運命になっていくそれが、いつの間にか誰かを傷つけ、誤解させ、違和感を生んでしまう。
ある誕生日のパーティーで秘密と嘘が弾け、騒然となるが、夫々の蔭の部分の痛みに触れて 温かいファミリーに変容してゆくのである。その演劇的な組み立ても仲々見応えがある。
見終わって、「ああ、これは正にシェイクスピアだ」と言う感慨があった。同監督が好き だと言っている小津安二郎的表現とも思える、家の中の人々の動きやカメラの追跡、表面 を抑えながら、内容を表現している流れは、異文化を感じさせない。会話は、ユーモアや アイロニーで綴られて、いい味付けになっている。オスカーを受賞したブレンダ・ブレッシ ンが、田舎町の勤め人の白人女性を見事に演じ、生後間もなく養子に出した娘(黒人) マリアンヌ・ジャン・バプティストとの二十数年振りの再会の場面は名演技が噛み合い、 思わず息をのむ程である。 」
さて、見終わって矢張り10年に一つの名作と云える。近頃の欧米の映画をみるに、人間の持つ深刻さや格好悪さを避けて、表面的に甘く家族愛を描いているが、この作品は内在する表裏を一歩深くリアルに描きながら、素朴なところに本当の愛があることを教えている。
先日、一緒に鑑賞したF氏よりの指摘によると、原題の“Secrets & Lies”の副題にフランス語“SECRETS et MESONAGES”と映し出されていた由で、フランスの征服王ウイリアム1世が英国を征服した時代の交流から、イギリス映画とは云えヨーロッパ文化、人生観に共通したものがあろうかと示唆されている。想像するに、邦題“秘密と嘘”と直訳されているが、“嘘“と申すより”虚偽“と広い解釈が日本人には判りよく、人間について回る“虚実“の物語なのである。
物語は、私生児の娘、ロクサンヌからは蔑まれ、弟モーリス(ティモシー・スポール)とも折り合い悪く、何一つ望みなく暮らしているシンシア(ブレンダ・ブレッシン)にある日、あなたは私の母だという若い女性ホーテンス(マリアンヌ・ジャン=バプティスト)から電話を受ける。黒人であるホーテンスは自分が生んですぐ養子に出した娘であることが判る。
展開は、この隠し事(秘密)が家族の前に明かされる、モーリスの家でのロクサンヌの誕生会で、それぞれの持っている心の傷が明かされ、家族の中の突っ張った虚像を溶かしてゆく、監督のシナリオを、見事に表現したブレンダ・ブレッシンと、マリアンヌ、ティモシーの息の合った名演技は忘れられない。特に、初めて親子が待ち合わせ場所で、顔を知らない二人が、同じ場所を何度も行き来しても気が付かない、気がついても中々信じきれないシーンは正に事実そのもののような臨場感であり、二度目に娘ホーテンスに会いに行くシンシアの顔は一点の曇りもない、太陽のような表情になっている。
二人の娘の前で「人生っていいわね」というシンシアの晴れ晴れとしたセリフでこの作品の
幕となって、ほっとしたが、翻ってみるに、運命に逆らわず不服も言わず努力するホーテンスがいい「人生の軸」になっている。やたらに挑戦的な人生観より、かかる静謐な日本的な人生観のほうが、近道のような気がする。
(平成28年2月25日)
by masakuzu
| 2016-02-27 21:35
| 名作シリーズ