2011年 07月 25日
バビロンの陽光 (原題:Son of Babylon) |
イラク・イギリス・フランス・オランダ・パレスティナ・UAE・エジブト合作
監督・製作・脚本・撮影:モハメド・アルダラジー
----------------------------------------------------------------
荒涼たる大地を北から南へ過酷な“一本の道”、クルド地区から、バクダッド、ナシリヤ、バビロンへとよぎる戦火に荒れ果てた900キロを老婆と孫が戦争から戻らない父親を探し歩き続ける悲しい絶望的なイラクの日々を赤裸々に描き、世界に訴えたイラク人、アルダラジー監督の懸命なメッセージである。
イラクと云う国は、文明文化継承の不連続、栄枯盛衰の振幅の大きさ、西欧諸国との不幸な関係、異なった人種、宗教宗派がいがみ合う偏った展開を見せている地域で、その国民は対外問題の時のみに国としての意識を持つものの、日本の様な単一系民族の持つ愛国心や価値観とは全く違う国情を持っている上、未だに個人の生命、財産が必ずしも保証されない、安心安全から程遠い地域であると言っても過言ではないのである。
2003年、フセイン政権崩壊直後の物語であるが、この作品は24年間にわたる独裁政権の反体制派、クルド民族への弾圧、イランイラク戦争、クエート侵攻、湾岸戦争と、独裁と覇権の失政の齎した結末がどんなに過酷なものであったか、国と、国民を犠牲にしてきた実態を、実際親兄弟を失った一家族の悲劇的な姿を通して、生々しく、困難な環境下ドキュメンタリータッチで描いたものである。
物語は、戦友の手紙を手掛かりに、僅かな手金を持って苦労して辿りついたナシリア刑務所には生きた父親の姿はなく、教えられて行った集団墓地でも二人は父親の遺骨にも巡り会えない。絶望と苦しい旅の果てに祖母は、少年が「おばあちゃん、バビロンに来たよ」と伝えた時には息が絶えていた。少年は一人残される。映画は救いも感傷もなく、未来の展望もなく終わるのである。
イラクの戦後、イラク人の製作した3本目の映画であり、映画製作のインフラもなく機材もない中、上記6カ国協力によって実現したものであり、喜怒哀楽を失った祖母も少年も被災地から探し出した、手造りの映画である。監督の叫びは、「ヨーロッパで65人の人が亡くなれば、イラクで同じ65人の人が亡くなるより、重大な事件として扱われるでしょう。そのことに怒りを感じます。」そして戦争、虐殺で損なわれるのはそこに住む“人間の絆”であり、“国の文化”であると主張している。
この映画が語るものは、2人に象徴される人の絆や、地域の絆など、ひいては国の絆が齎す美しい国とあるべき文化を希求している。
アルダラジー監督は、この映画に「バビロンの息子」と云う原題を付けている。この映画に登場する孫がバビロン遺跡にある空中庭園を尋ねることを夢見る。未だイラクの現実は不遇ではあるとしても、残された子供達に、バビロンの様な未来の夢を持たせたかったに違いない。
(☆☆☆☆)
(平成23年7月19日)
監督・製作・脚本・撮影:モハメド・アルダラジー
----------------------------------------------------------------
荒涼たる大地を北から南へ過酷な“一本の道”、クルド地区から、バクダッド、ナシリヤ、バビロンへとよぎる戦火に荒れ果てた900キロを老婆と孫が戦争から戻らない父親を探し歩き続ける悲しい絶望的なイラクの日々を赤裸々に描き、世界に訴えたイラク人、アルダラジー監督の懸命なメッセージである。
イラクと云う国は、文明文化継承の不連続、栄枯盛衰の振幅の大きさ、西欧諸国との不幸な関係、異なった人種、宗教宗派がいがみ合う偏った展開を見せている地域で、その国民は対外問題の時のみに国としての意識を持つものの、日本の様な単一系民族の持つ愛国心や価値観とは全く違う国情を持っている上、未だに個人の生命、財産が必ずしも保証されない、安心安全から程遠い地域であると言っても過言ではないのである。
2003年、フセイン政権崩壊直後の物語であるが、この作品は24年間にわたる独裁政権の反体制派、クルド民族への弾圧、イランイラク戦争、クエート侵攻、湾岸戦争と、独裁と覇権の失政の齎した結末がどんなに過酷なものであったか、国と、国民を犠牲にしてきた実態を、実際親兄弟を失った一家族の悲劇的な姿を通して、生々しく、困難な環境下ドキュメンタリータッチで描いたものである。
物語は、戦友の手紙を手掛かりに、僅かな手金を持って苦労して辿りついたナシリア刑務所には生きた父親の姿はなく、教えられて行った集団墓地でも二人は父親の遺骨にも巡り会えない。絶望と苦しい旅の果てに祖母は、少年が「おばあちゃん、バビロンに来たよ」と伝えた時には息が絶えていた。少年は一人残される。映画は救いも感傷もなく、未来の展望もなく終わるのである。
イラクの戦後、イラク人の製作した3本目の映画であり、映画製作のインフラもなく機材もない中、上記6カ国協力によって実現したものであり、喜怒哀楽を失った祖母も少年も被災地から探し出した、手造りの映画である。監督の叫びは、「ヨーロッパで65人の人が亡くなれば、イラクで同じ65人の人が亡くなるより、重大な事件として扱われるでしょう。そのことに怒りを感じます。」そして戦争、虐殺で損なわれるのはそこに住む“人間の絆”であり、“国の文化”であると主張している。
この映画が語るものは、2人に象徴される人の絆や、地域の絆など、ひいては国の絆が齎す美しい国とあるべき文化を希求している。
アルダラジー監督は、この映画に「バビロンの息子」と云う原題を付けている。この映画に登場する孫がバビロン遺跡にある空中庭園を尋ねることを夢見る。未だイラクの現実は不遇ではあるとしても、残された子供達に、バビロンの様な未来の夢を持たせたかったに違いない。
(☆☆☆☆)
(平成23年7月19日)
by masakuzu
| 2011-07-25 14:58
| ヨーロッパ合作